2009.06.01
6月は、気候が変わりやすく、夏に向けて温度変化が激しい季節です。もちろん梅雨の季節でもあります。 案外、風邪を引きやすい時でもあります。
風邪の後に、風邪症状(鼻水・のどいた・咳など)は治ったのにニオイが戻らないということがあります。
嗅覚障害(ニオイの障害)の原因の一番は、鼻炎・副鼻腔炎(蓄膿症)なのですが、2番目に多い原因は風邪の後からなのです。ちなみに3番目に多いのは頭部外傷後(頭をうったあとなど)、原因不明と続きます。
1) 鼻炎・副鼻腔炎でニオイがなくなる(にぶくなる)のは、鼻水や鼻の粘膜が腫れることで、鼻の奥の上の方にあるニオイを感じる場所へ吸い込んだニオイが到達できないことが主な原因ですので、鼻炎・副鼻腔炎の治療でたいていはよくなります(例外もありますが)。
2) 実は、やっかいなのが風邪をひいたあとの嗅覚障害です。
風邪が治って、鼻もつまってないし、鼻の粘膜の腫れもないのにニオイがわからない、しかもかなり重症である、というのが風邪後の嗅覚障害の特徴です。風邪の炎症によって(ウイルスの感染も?)ニオイの神経が障害をうけたのが、その原因であることはわかっているのですが、どのウイルス、どんな風邪のときに嗅覚障害が起こるのかは、いまだ不明です。
私たちは以前、風邪のあとにニオイがなくなる患者さんの統計をとったことがあるのですが、6月に風邪をひいたあとに嗅覚障害(ニオイの障害)を来たすことがもっとも多かったのです。今月の風邪は要注意です。インフルエンザが流行する季節(12月―3月です。先ごろより日本中を騒がせている新型は例外として)に嗅覚障害来たす患者さんは多くなかったのです。少なくともインフルエンザウイルスは嗅覚障害の原因ではなさそうです。
この場合の治療は、症状がおこって早期の場合はステロイドの点鼻、局所注射と、ビタミン剤・循環改善剤・漢方の内服治療を行います。と、いろいろ治療を行うのですが、やはり症状がでてから早く治療した方が治療成績は良いですが、2ヶ月以上経過してから治療を開始した場合、50%以下の改善にとどまるようです。
3)転倒などで後頭部を打撲した後にも嗅覚障害を来たすことがあります。 交通外傷などで、衝撃の強い場合では、ニオイの神経が頭の中に入るところで切れちゃうこともあって、その場合の回復はかなり困難です。残念ながら有効な治療法がなく、改善率も30%程度にとどまっています。
4)なんの誘引(風邪のひいてないのに)もなくニオイがわからなくなることもあります。ステロイド・漢方なども使用するのですが、この場合も50%程度の改善にとどまります。原因が不明なので治療法が選択しずらいのも治り難い原因でしょう。
*犬はヒトの数万倍、ニオイに敏感です。ヒトは進化の過程で視覚を優先し、ニオイの神経はどうやら退化してきているようです。
*聴覚と同じ様に、ニオイも年齢とともに衰えます。70歳代では、20歳代の半分程度のニオイを嗅ぎ分ける能力になります。これは残念ながら戻すことは難しいです。
*ニオイがないと、味もわかりづらくなって、いわゆる風味障害の状態になることもあり、食事が楽しくありません。治り難い嗅覚障害もあるのですが、根気良く治療をつづけるうちに改善することもありますので、あきらめないで治療しましょう。
*ニオイの神経は再生することが知られています。将来、この再生を促す有効な治療法が開発されることを期待しています。